の甚痛のするどきこと菊のごときものはなく、菊よりして傷《いた》みを發すること疾患聖者の手のごときものはない。
愛する兄弟よ。
いまこそわが左に來れ。
汝が卓上に供ふるもの、愛餐酒盃の間、その魚の最も大なるものは正しく汝の所有である。
爾は女の足をひきかつぎ寢《ね》ることによりて、その素足に供養し流涕することによりて、爾の魚の大をなす所以である。
まことに夜陰に及び、汝が邪淫の臥床《ふしど》にさへ下馬札を建てるところの聖徒である。
凡そ我れの諸弟子諸信徒のうち、汝より聖なるものはなく、汝より邪慾のものはない。乞ふ、われはわれの肉を汝にあたへ、汝を給仕せんがために暫らく汝の右に坐することを許せ。
ああ、この兄弟よ、ぷうしきん[#「ぷうしきん」に傍点]の徒よ、爾は愛するユダである。我をあざむき賣《う》らむとし、我を接吻せんとする一念にさへ、汝は連坐頌榮の光輪を一人負ふところの聖徒である、『愛』である。
愛する兄弟よ。
而して汝は氷海に靈魚を獲んとするところの人物である。
肉親の骨肉を負ひて道路に蹌行し、肉を以て氷を割らんとするの孝子傳奇蹟人物である。
みよ、汝が匍行するところに汝が蒼白の
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