昔時の日本人の生活を想へ。眞に生くるものは貴族にして賤民にあらず、賤民に遊戲なる生活なし。
西洋人の思想を受賣りするより外に能なき衒學屋と流行屋を葬れ。
乞食をしても葉卷煙草を吸ふ者は室生犀星一人のみ。
眞に彼は賤民貴族の公爵なる哉。
詩は斷じて空想に非ず、實驗の世界なり。
奇蹟は感動にして形體に非ず、天國を説かんとするものは必ずその口を緘せらる。此の故に詩人の武器は言葉に非ずして傳熱なり。抽象にあらずして象徴なり。
いやしくも理智又は意志がその概念を展開したる祈祷は虚僞なり、かくの如き祈祷には感應あることなし。眞《まこと》に祈祷するものは一所懸命なり、祈祷者はその心靈に於て明らかに神と交歡す、彼自ら何を言ひ何を語りつつあるかを知らざる也。
奇蹟を啓示するものは神なり、神とは宇宙の大精力なり、而して之と交歡し得るもの人間の感傷以外にあること無し。
幼兒と聖人は神に聽かれんために祈祷し、衒學者及び説教者は傍人に聽かれんために祈祷す。
前者の祈祷は『詩』なり、その最も單純なるものと雖も尚『詩』といふを得べし。後者の祈祷に至りては『演説』にして詩に非ず、その最も幽邃深玄を極むる
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