ところの、同じ倫理線の上に立っているので、この本質の点から言うならば、世に無道徳的なるいかなる主義もないわけである。そしてこの正義感の情操は、愛のそれと反対であり、男性的で反撥《はんぱつ》の力に強く、意志を強調し、どこか心を高く、上に高翔させるような思いがある。カントが倫理感の本性を説明して、天にありては輝やく星辰《せいしん》、地にありては不易の善意と言ったのは、その語調さながらに、この種の倫理的情操を明示している。それは愛の情操と並んで、道徳感の二大種目を対立している。(文芸の上に於て、いかにこの対立が現象してくるかは、後に至って解るであろう。)
 かく道徳的情操は、本質に於ての詩的精神である故《ゆえ》に、すべて倫理感を基調としている文芸は、必然に「詩」の観念に取り入れられる。しかしながらより[#「より」に傍点]真の詩を持つものは、道徳でなくして宗教である。なぜなら宗教は、一層「感情の意味」が濃厚であり、イデヤに於ての夢が深く、永遠に実在するものに対するプラトン的思慕の哲学を持っているから。実に宗教の本質は、或る超現在的なものへのあこがれ[#「あこがれ」に傍点]であり、霊魂のイデヤに
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