に属している。実に音楽と美術とは、一切芸術の母音であって、あらゆる表現の範疇する両極である。即ち主観主義に属する一切の芸術文学は、音楽の表現に於て典型され、客観主義に属するすべてのものは、美術の表現に於て典型される。故に音楽と美術との比較鑑賞は、それ自ら文芸一般に通じての認識である。
音楽と美術! 何という著るしい対照だろう、およそ一切の表現中で、これほど対照の著るしく、芸術の南極と北極とを、典型的に規範するものはない。先《ま》ず音楽を聴《き》き給え。あのベートーベンの交響楽《シムホニイ》や、ショパンの郷愁楽《ノクチューン》や、シューベルトの可憐《かれん》な歌謡《リード》や、サン・サーンスの雄大な軍隊行進曲《ミリタリマーチ》やが、いかに情熱の強い魅力で、諸君の感情を煽《あお》ぎたてるか。音楽は人の心に酒精を投じ烈風の中に点火するようなものである。仏蘭西《フランス》革命当時の狂児でなくとも、あのマルセーユの歌を聴いて狂熱し、街路に突進しないものがどこにあろうか。音楽の魅力は酩酊《めいてい》であり、陶酔であり、感傷である。それは人の心を感激の高所に導き、熱風のように狂乱させる。或《あるい
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