は、時に小説を指して歴史(文学的歴史)と言い、或《あるい》は散文の叙事詩と呼んでいる。だがこうした呼び方は、もちろん言語上の比喩《ひゆ》であって、具体的に適応しないのは勿論《もちろん》である。明白に言って小説は――どんな歴史物語的の小説でも――実の歴史とちがっているし、また勿論叙事詩とも根本でちがっている。なぜなら小説の表現は、史上の事件を「描写する」のに、歴史はこれを「記述する」し、叙事詩は「情象する」からである。

[#ここから3字下げ]
 叙事詩と小説の相違は、琵琶歌《びわうた》と講談の相違である。琵琶歌は感情の浪《なみ》に乗って事件が語られ、講談はそれがさも有る如く、事件がレアールに描写される。
[#ここで字下げ終わり]

 叙事詩に類する別の韻文は、劇詩と称するものであって、これの舞台に於ける様式を詩劇と言う。この劇詩や詩劇やが、普通の科白劇とちがうところは、後者が「知性の意味」を主とし、人生のレアールな真相を表現しようと欲するのに、前者は「感情の意味」を主として、神秘、荘厳、優艶《ゆうえん》、典雅等の、情的な意味や気分を出そうとする。即ち後者の表現は「描写」であって、前者の
前へ 次へ
全334ページ中183ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング