稽古をして貰つたりした。
みのるは逆上《のぼせ》きつた顏をして、夜おそくまで引き留められてゐた。さうして又大學生に連れられてこの家を出た。歸る時一所に出て來た有野文學士と、みのるは暗い路次の外れで挨拶して別れた。
家へ歸つた時義男は二階にゐた。其所に坐つたみのるを見た義男は、その逆上《のぼせ》の殘つた眼の端にこの女が亂れた感情をほのめかしてゐる事に氣が付いた。義男はこの頃にない女に對する嫉妬を感じながらみのるが何と云つても默つて居た。
「私が入つて行つた時にね、簑村といふ人は上《あが》り端《はな》の座敷の隅に向ふを向いて立つてゐたの。それがすつかり私の方から見えてしまつたの。」
みのるはこればかりをくり返して一人で笑つてゐた。
その晩みのるは不思議な夢を見た。それは木乃伊《みいら》の夢であつた。
男の木乃伊と女の木乃伊が、お精靈《しやうらい》樣の茄子の馬の樣な格好をして、上と下とに重なり合つてゐた。その色が鼠色だつた。さうして木偶《でく》見たいな、眼ばかりの女の顏が上に向いてゐた。その唇がまざ/\と眞つ赤な色をしてゐた。それが大きな硝子箱の中に入つてゐるのを傍に立つてみのるが
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