木乃伊の口紅
田村俊子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)檜葉《ひば》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一本|圖拔《づぬ》けて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「赭のつくり/火」、第3水準1−87−52]《い》り豆
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ひよろ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
一
淋しい風が吹いて來て、一本|圖拔《づぬ》けて背の高い冠のやうな檜葉《ひば》の突先《とつさき》がひよろ/\と風に搖られた。一月初めの夕暮れの空は薄黄色を含んだ濁つた色に曇つて、ペンで描いたやうな裸の梢の間から青磁色をした五重の塔の屋根が現はれてゐた。
みのるは今朝早く何所《どこ》と云ふ當てもなく仕事を探しに出た良人の行先を思ひながら、ふところ手をした儘、二階の窓に立つて空を眺めてゐた。横手の壁に汚點《しみ》のやうな長方形の薄い夕日がぼうと射してゐたが、何時の間
次へ
全84ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田村 俊子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング