眺めてゐた夢であつた。自分はそれが何なのか知らなかつたのだが、誰だか木乃伊だと教へた樣な氣がした。
朝起きるとみのるはおもしろい夢だと思つた。自分が畫を描く人ならあの色をすつかり描き現して見るのだがと思つた。さうしてあれは木乃伊だといふ意識がはつきりと殘つてゐたのが不思議であつた。
「私はこんな夢を見た。」
みのるは義男の傍に行つて話をした。さうして「これは何かの暗示にちがひない。」と云ひながら、その形だけを描かうとして机の前へ行つた。
「夢の話は大嫌ひだ。」
然う云つた義男は寒い日向で痩せた犬の身體を櫛で掻いてゐた。
底本:「田村俊子作品集 第1巻」オリジン出版センター
1987(昭和62)年12月10日発行
底本の親本:「木乃伊の口紅」牧民社
1914(大正3)年6月15日発行
初出:「中央公論」中央公論社
1913(大正2)年4月
※「場」と「塲」の混在は、底本通りです。
入力:小鍛治茂子
校正:小林繁雄
2006年9月15日作成
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