つつき」に傍点]のこの空虚《からつぽ》な座敷の中は唯お互の心を一層|荒《すさま》しくさせるばかりだつた。それを厭がつてみのるは自分で本などを賣つて來てから、高價《たか》い西洋花を買つて來て彼方此方《あつちこつち》へ挿し散らしたりした。然うしたみのるの不經濟がこの頃の義男には決して默つてゐられる事でなかつた。
まるで情人と遊びながら暮らしてゞもゐる樣な生活は、どうしても思ひ切つて了はねばならないと義男は思ひつゞけた。七十を過ぎながら小遣ひ取りにまだ町長を勤めてゐる故郷の父親の事を思ふと義男はほんとに涙が出た。只の一度でも義男は父親の許へ菓子料一とつ送つた事はなかつた。義男だといつても自分の力相應なものだけは働いてゐるに違ひなかつた。それが何時も斯うして身滲《みじ》めな窮迫な思ひをしなければならないといふのは、只みのるの放縱がさせる業《わざ》であつた。
義男は又、昔の商賣人上りの女と同棲した頃の事が繰り返された。その頃は今程の收入がなくつてさへ、何うやら人並な生活をしてゐた。――義男はつく/″\みのるの放縱を呪つた。
この女と離れさへすれば、一度失つた文界の仕事ももう一度得られるやう
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