たちの低級な趣味の中に自分を輕く落して突き交ぜやうとする努めの爲にだん/\疲れてきた。清月にゐる間の自分を省みると、そこには蓮葉《はすつぱ》な無教育な女が自分になつて現はれてゐた。
もう一とつ厭な事があつた。
みのるの役のワキ役になる女優に録子《ろくこ》といふのがゐた。みのるよりも年嵩《としかさ》で舊俳優の中から出てきた人だつた。目の大きな鼻の高い役者顏の美しい女であつた。みのるはこの録子と一所にゐる間は始終この女の極く世間摺れした心から妙に自分と云ふものを壓し付けられる樣な自分の感情の沮喪《そさう》の苦しみがつゞくのであつた。録子は女役者にもなれば藝妓にもなると云ふ樣に世間を渡り歩いてきた氣の強い意地つ張りが、誰に向つても自分の心持に反《そ》りを打たして、相手をぐいと押|退《の》ける樣な態度を見せた。みのるはそれにぢり/\して、この録子を恐れた。そうしてワキの録子がみのるの仕科《しぐさ》の上につけ/\と注文をつけたりしても、みのるは自分の藝術の權威を感じながらこの録子に向つては言葉を返す事が出來なかつた。
みのるは小供の頃小學校へ通ふ樣になつてから、何年生になつてもその同じ級の
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