默つた。
清月でみのるは酒井にも行田にも逢つた。何方もみのるの見知り越しの人であつた。酒井といふのは、一方では、これから理想の演劇を起そうとして多くの生徒をごく内容的に養成してゐる或る博士のもとに働いてゐる人であつた。みのるはこの酒井のハムレツトを見て、その新らしい技藝に醉つたことがあつた。
眼と鼻のあたりに西洋人らしい俤はあつたが丈《せい》の小さい人であつた。行田は圖拔けて背の高い人であつた。いつも眼の中に思想を蓄へてると云ふ樣な顏付をしてゐた。笑つても頭の奧で笑つてる樣なぬつとした容態があつた。
鋭くしやんとした酒井と、重く屈《かゞ》み加減になつてる行田とはいつも兩人《ふたり》ながら膝前をきちりと合はせて稽古の座敷の片隅に並んで座つてゐた。
その中を例の小山は睫毛《まつげ》の長い愛嬌に富んだ眼を隅から隅へ動かしながら、その小さな身體をちよこ/\と彈ましてゐた。
みのるの外に女優が二三人ゐた。どれも若くて美しかつた。早子《はやこ》と云ふのは顏は痩せてゐたけれども目を瞑《つぶ》つたりすると印象の強い暗い蔭が漂つた。そうして口豆《くちまめ》な女だつた。艶子《つやこ》と云ふのがゐ
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