とする女の心持が、又|何日《いつか》のやうに憎まれだした。
「君はだまつて書いてゐればいゝぢやないか。」
「何を書くの。」
「書く樣な仕事を見付けるさ。」
「文藝の方ぢやいくら私が考へても世間で認めてくれないぢやありませんか。今度はいゝ時機だからもう一度演藝の方から出て行くわ。私には自信があるんですもの。それに酒井さんや行田さんが、ステージマネジヤならきつとやれるわ。」
みのるは眼を輝かして斯う云つた。みのるは實は筆の方に自分ながら愛想を盡かしてゐたのであつた。それはこの間の仕事によつて自分で分つたのであつた。ひそかに筆の上に新らしい生命を養ひつゝあるとばかり自負してゐたみのるは、この間の仕事にそれがちつとも現はれてこなかつた事を省みると、自分ながら厭になつてゐた。けれ共義男には然うは云はなかつた。何故ならあの時にみのるは義男に向つて自分の大切な筆をそんな賭け見たいな事に使はないと云つて罵り返したのであつた。その自分の言葉に對してもみのるには其樣《そんな》おめ/\した事は義男の前で云へなかつた。
自分ながら筆の上に思ひを斷つ以上、もう一度舞臺の方で苦勞がして見たかつた。新聞で見た新
前へ
次へ
全84ページ中54ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田村 俊子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング