》い女だわね。」
みのるは義男の袖を引つ張つた。
「あれが轆轤《ろくろ》つ首だらう。」
義男も笑ひながら覗いて見た。上の看板に、肩衣をつけた女の身體からによろ/\と拔け出した島田の女の首が人の群集を見下してゐる樣な繪がかいてあつた。義男はかうした下等な女藝人の白粉《おしろい》が好きであつた。その女の眼に義男は心を惹かれながら又歩きだした。
二人は三河島の方を見晴らした崖の掛茶屋の前に廻つて來た。葭簀《よしず》を張りまわした軒並びに鬼灯《ほゝづき》提燈が下がつて、サイダーの瓶の硝子や掻きかけの氷の上にその灯の色をうつしてゐた。そこで燒栗を買つた義男はそれを食べながら崖の下り口に立つて海のやうに闇い三河島の方を眺めてゐた。この祭禮の境内へ入つてくる人々が絶えず下の方から二人の立つてる前を過《よぎ》つて行つた。
「あなたに相談があるわ。」
みのるは云ひながら、境内の混雜を見捨てゝ崖から下へおりやうとした。
「何だい。」
「もう一度芝居をやらうと思ふの。」
「君が? へえゝ。」
二人は崖をおりて踏切りを越すと日暮里の方へ歩いて出た。みのるは歩きながら酒井や行田のやらうとしてゐる新劇團
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