ところ/″\に、表の賑やかさを少しちぎつて持つて來た樣な色を浮べてぼんやりと滲染《にじ》んでゐた。その明りの蔭に白い浴衣の女の姿が媚《なまめ》いた袖の靡《なび》きを見せて立つてゐた門《かど》もあつた。通りに出るといつも寂《さ》びれた塲末の町は夜店の灯と人混みの裾の縺《もつ》れの目眩しさとで新たな世界が動いてゐた。
 二人は人に押返されながら神社の中へ入つて行つた。赤い椀を山に盛つた汁粉の出店の前から横に入ると、四十位の色の黒い女が腕|捲《まく》りをして大きな聲で人を呼んでる見世物小屋の前に出た。幕が垂れたり上つたりしてゐる前に立つて中を覗くと、肩衣《かたぎぬ》をつけた若い女が二人して淨瑠璃でも語つてゐる樣な風をしてゐる半身が見えた。その片々の女は目の覺めるほど美しい女であつた。薄暗い小屋の中から群集の方へ時々投げる眼に、瞳子《ひとみ》の流れるやうなたつぷりした表情が動いてゐた。艶もなく胡粉《ごふん》のやうに眞つ白に塗りつけたおしろいが、派出な友禪の着物の胸元に惡毒《あくど》い色彩を調和させて、猶一層この女を奇麗に見せてゐた。鼻が眞つ直ぐに高くて口許がぽつつりと小さかつた。
「まあ美《い
前へ 次へ
全84ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田村 俊子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング