る間、みのるは鏡の前へ行つて、頸卷《えりまき》をしてくると大きい包を抱へて立つてゐた。そうして自分一人なら車で行つて來てしまふのにこの人と一緒だと雨の中を歩かねばならないと思つたが、口に出しては何も云はなかつた。
みのるは重い包みを片手に抱へたまゝ戸締りをしたり、棚から傘を下したりした。包が邪魔になるとそれを座敷の眞中に置き放しにして來て、在所《ありか》を忘れて又|彼方此方《あちらこちら》を探したりした。
二人は一本づゝ傘を手にして庭の木戸から表に廻つた。
「留守番をしてゐるんだよ。お土産を買つて來て上げるからね。」
雨のびしよ/\と雫を切らしてゐる暗い庭の隅に、犬の白い姿を見付けるとみのるは聲をかけた。犬は二人して外に出る時はいつも家の中に閉ぢ籠められておくことに馴らされてゐた。怜悧《りこう》な小犬は二人の出て行く物音に樣子を覺《さと》つて、逐ひ籠められないうちに自分から椽の下にもぐり込まふとしてゐるのであつた。
門をしめて外に出てからも、みのるはひつそりとしてゐる犬の樣子がいつまでも氣に掛つて忘られられなかつた[#「忘られられなかつた」はママ]。少し歩いてくると義男は氣が付
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