ゐる樣にみのるに聞こえた。
義男が居ない間に、みのるは一人して箸を取る氣になれないので、今日も外に出てゐた義男と同じやうに何も食べずにゐた。それで義男の言葉を聞くと急にみのるは食事といふ事にいつぱいの樂しみをつながれて、臺所へ出て行つて働き初めた。膳の支度が出來るまで義男は今の樣子の儘で動かなかつた。
二
「僕は到底駄目な人間だね。僕にやとても君を養つてゆく力はないよ。」
默つて食事を濟ましてしまつた義男は、箸をおくと然う云つてまた横になつた。それに返事をしなかつたみのるは、膳を片付けてしまふと箪笥の前に行つて抽斗《ひきだし》から考へ/\いろ/\なものを引出して其所に重ねた。
「おい。行つてくるの?」
「えゝ。だつて何うする事も出來ないもの。」
みのるは包みを拵へてから、平常着《ふだんぎ》の上へコートを着て義男の枕許で膝の紐を結んだ。
「ぢや行つてきます。一人だつていゝでせう。淋しかないでせう。」
みのるは膝を突いて義男の額を撫でた。義男の狹い額は冷めたかつた。
「僕も一緒に行く。」
「ぢや着物を着代へなくちや。洋服ぢやおかしいから。」
義男が洋服を脱いでゐ
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