》ける樣な光りをその眼に漲らして義男の狹い額をぢろ/\と見初めると、義男は直ぐにその眼を眞つ赤にして、
「生意氣云ふない。君なんぞに何が出來るもんか。」
 斯う云つて土方人足が相手を惡口する時の樣な、人に唾でも吐きかけそうな表情をした。斯うした言葉が時によるとみのるの感情を亢ぶらせずにはおかない事があつた。智識の上でこの男が自分の前に負けてゐると云ふ事を誰の手によつて證明をして貰ふ事が出來やうかと思ふと、みのるは味方のない自分が唯情けなかつた。そうして、
「もう一度云つてごらんなさい。」
と云つてみのるは直ぐに手を出して義男の肩を突いた。
「幾度でも云ふさ。君なんぞは駄目だつて云ふんだ。君なんぞに何が分る。」
「何故。どうして。」
 ここまで來ると、みのるは自分の身體の動けなくなるまで男に打擲されなければ默らなかつた。
「あなたが惡るいのに何故あやまらない。何故あやまらない。」
 みのるは義男の頭に手を上げて、強ひてもその頭を下げさせやうとしては、男の手で酷《ひど》い目に逢はされた。
「君はしまひに不具者《かたは》になつてしまふよ。」
 翌《あく》る日になると、義男はみのるの身體に殘つ
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