ォ」な建築として円形の室または円天井《まるてんじょう》を想像することはできない。「いき」な建築は火灯窓《かとうまど》や木瓜窓《もっこうまど》の曲線を好まない。欄間《らんま》としても櫛形《くしがた》よりも角切《かくぎり》を択ぶ。しかしこの点において建築は独立な抽象的な模様よりはやや寛大である。「いき」な建築は円窓《まるまど》と半月窓《はんげつまど》とを許し、また床柱の曲線と下地窓《したじまど》の竹に纏《まと》う藤蔓《ふじづる》の彎曲《わんきょく》とを咎《とが》めない。これはいずれの建築にも自然に伴う直線の強度の剛直に対して緩和を示そうとする理由からであろう。すなわち、抽象的な模様と違って全体のうちに具体的意味をもつからである。
なお、建築の様式上に表わるる媚態の二元性を理想主義的非現実性の意味に様態化するものには、材料の色彩と採光照明の方法とがある。建築材料の色彩の「いき」は畢竟《ひっきょう》、模様における色彩の「いき」と同じである。すなわち、灰色と茶色と青色の一切のニュアンスが「いき」な建築を支配している。そうして、一方に色彩の上のこの「さび」が存すればこそ、他方に形状として建築が二
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