゚には普通は飽和の度と関係してくる。「松葉色の様なる御納戸」とか、木賊《とくさ》色とか、鶯色とかは、みな飽和度の減少によって特に「いき」の性質を備えているのである。
要するに、「いき」な色とはいわば華《はな》やかな体験に伴う消極的残像である。「いき」は過去を擁して未来に生き[#「生き」に傍点]ている。個人的または社会的体験に基づいた冷《ひや》やかな知見が可能性としての「いき」を支配している。温色の興奮を味わい尽した魂が補色残像として冷色のうちに沈静を汲むのである。また、「いき」は色気のうちに色盲《しきもう》の灰色を蔵している。色に染《そ》みつつ色に泥《なず》まないのが「いき」である。「いき」は色っぽい肯定のうちに黒ずんだ否定を匿《かく》している。
以上を概括すれば、「いき」が模様に客観化されるに当って形状と色彩との二契機を具備する場合には、形状としては、「いき」の質料因たる二元性を表現するために平行線が使用され、色彩としては、「いき」の形相因たる非現実的理想性を表現するために一般に黒味を帯びて飽和弱いものまたは冷たい色調が択《えら》ばれる。
次に、模様と同じく自由芸術たる建築[#
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