ある。
 要するに、この直六面体の図式的価値は、他の同系統の趣味がこの六面体の表面および内部の一定点に配置され得る可能性と函数的《かんすうてき》関係をもっている。

 {1}『船頭部屋』に「ここも都の辰巳《たつみ》とて、喜撰《きせん》は朝茶の梅干に、栄代団子《えいたいだんご》の角《かど》とれて、酸いも甘いもかみわけた」という言葉があるように、「いき」すなわち粋[#「粋」に傍点]の味は酸い[#「酸い」に傍点]のである。そうして、自然界における関係の如何《いかん》は別として、意識の世界にあっては、酸味は甘味と渋味との中間にあるのである。また渋味は、自然界にあっては不熟の味である場合が多いが、精神界にあってはしばしば円熟した趣味である。広義の擬古主義が蒼古的《そうこてき》様式の古拙性を尊ぶ理由もそこにある。渋味に関して、正、反、合の形式をとって弁証法が行われているとも考えられる。「鶯《うぐいす》の声まだ渋く聞《きこ》ゆなり、すだちの小野の春の曙《あけぼの》」というときの渋味は、渋滞の意で第一段たる「正」の段階を示している。それに対して、甘味は第二段たる「反」の段階を形成する。そうして「無地表
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