A地味の対立はそれ自身においては何ら価値判断を含んでいない非価値的のものである。対立の意味は積極的と消極的との差別に存している。
「いき」との関係をいえば、派手は「いき」と同じに他に対して積極的に媚態を示し得る可能性をもっている。「派手な浮名が嬉しうて」の言葉でもわかる。また「うらはづかしき派手姿も、みなこれ男を思ふより」というときにも、派手と媚態との可能的関係が示されている。しかし、派手の特色たるきらびやかな衒《てら》いは「いき」のもつ「諦め」と相容れない。江戸褄《えどづま》の下から加茂川染の襦袢《じゅばん》を見せるというので「派手娘江戸の下より京を見せ」という句があるが、調和も統一も考えないで単に華美濃艶《かびのうえん》を衒う「派手娘」の心事と、「つやなし結城《ゆうき》の五ほんて縞《じま》、花色裏のふきさへも、たんとはださぬ」粋者《すいしゃ》の意中とには著しい隔《へだた》りがある。それ故に派手は品質の検校《けんこう》が行われる場合には、往々趣味の下劣が暴露されて下品の極印《ごくいん》を押されることがある。地味は原本的に消極的対他関係に立つために「いき」の有する媚態をもち得ない。そ
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