Bその或るものを「いき」は反価値的な下品と共有している。それ故に「いき」は上品と下品との中間者と見られるのである。しかしながら、三者の関係をかように直線的に見るのは二次的に起ったことで、存在規定上、原本的ではない。
(二) 派手[#「派手」に傍点]―地味[#「地味」に傍点]とは対他性の様態上の区別である。他に対する自己主張の強度または有無の差である。派手《はで》とは葉が外へ出るのである。「葉出」の義である。地味《じみ》とは根が地を味わうのである。「地の味」の義である。前者は自己から出て他へ行く存在様態、後者は自己の素質のうちへ沈む存在様態である。自己から出て他へ行くものは華美を好み、花やかに飾るのである。自己のうちへ沈むものは飾りを示すべき相手をもたないから、飾らないのである。豊太閤《ほうたいこう》は、自己を朝鮮にまでも主張する性情に基づいて、桃山時代の豪華燦爛《ごうかさんらん》たる文化を致《いた》した。家康《いえやす》は「上を見な」「身の程《ほど》を知れ」の「五字七字」を秘伝とまで考えたから、家臣の美服を戒め鹵簿《ろぼ》の倹素を命じた。そこに趣味の相違が現われている。すなわち、派手
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