味内容を有するものと考えても差支ないと思う。式亭三馬の『浮世風呂《うきよぶろ》』第二編巻之上で、染色に関して、江戸の女と上方《かみがた》の女との間に次の問答がある。江戸女「薄紫《うすむらさき》といふやうなあんばいで意気[#「意気」に傍点]だねえ」上方女「いつかう粋[#「粋」に傍点]ぢや。こちや江戸紫《えどむらさき》なら大好《だいすき》/\」。すなわち、「いき」と「粋」とはこの場合全然同意義である。染色の問答に続いて、三馬はこの二人の女に江戸語と上方語との巧みな使い別けをさせている。のみならず「すつぽん」と「まる」、「から」と「さかい」などのような、江戸語と上方語との相違について口論をさせている。「いき」と「粋」との相違は、同一内容に対する江戸語と上方語との相違であるらしい。したがって、両語の発達を時代的に規定することが出来るかもしれない(『元禄文学辞典』『近松語彙《ちかまつごい》』参照)。もっとも単に土地や時代の相違のみならず、意識現象には好んで「粋《すい》」の語を用い、客観的表現には主として「いき」の語を使うように考えられる場合もある。例えば『春色梅暦』巻之七に出ている流行唄《はやり
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