生の秋の黄色い淡い憂愁《ゆうしゅう》を描いている。「沈潜」のうちにも過去を擁する止揚の感情が表わされている。そうして、ボオドレエル自身の説明{9}によれば、「ダンディズムは頽廃期《たいはいき》における英雄主義の最後の光であって……熱がなく、憂愁にみちて、傾く日のように壮美である」。また「〔e'le'gance〕の教説」として「一種の宗教」である。かようにダンディズムは「いき」に類似した構造をもっているには相違ない。しかしながら、「シーザーとカティリナとアルキビアデスとが顕著な典型を提供する」もので、ほとんど男性に限り適用される意味内容である。そ黷ノ反して、「英雄主義」が、か弱い女性、しかも「苦界《くがい》」に身を沈めている女性によってまでも呼吸されているところに「いき」の特彩がある。またニイチェのいう「高貴」とか「距離の熱情」なども一種の「意気地」にほかならない。これらは騎士気質から出たものとして、武士道から出た「意気地」と差別しがたい類似をもっている{10}。しかしながら、一切の肉を独断的に呪《のろ》った基督《キリスト》教の影響の下《もと》に生立《おいた》った西洋文化にあっては、尋常の
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