議を開き、陽に土木治水費中堤防修築費と称し陰に谷中村買収の意味を含まして曖昧なる土木費を議決したり。是れ実に醜奴が第四着の醜行にして、谷中村買収事件の歴史ハ全く権力と金力と結托して無辜の良民を迫害したるに在り。
今仮りに谷中村堤内を買収したりとして事後の状態に就て少しく考究すれば真に恐るべき結果を発見すべし。何となれバ谷中村ハ一面に平地なるが故に、仮りに買収派の言ふ如く之を潴水池と為すも、大水氾濫するときハ瞬時にして堤内に充満し水流溢れて風波起り、余勢奔瀉して群馬、埼玉、茨城、千葉、東京等一円の隣地を襲ふに至り、浸水の地域拡張して損害の多大なる真に計る可からざるものあらん。果して然らバ谷中堤内の二村(栃木県谷中村 群馬県北海老瀬村)[#割り注]を滅亡して更に隣村数百を害するの結果を生ず可し。嗚呼是れ一県の失政は一県の厄に止まらずして更に一府四県ニ其害を及ぼすものに非ずや。夫れ潴水池ハ水害予防に供するにあり。水害予防ハ河川に連接せる各県の利害上互に連帯の関係を有せり。是れ実に公益上栃木県内の一事件として閑却すべきものに非ざるなり。
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