村に対する情誼の厚きハ、移して以て谷中村民の海老瀬村を思ふの深きに比すべきなり。若し谷中村にして一朝買収せらるゝ事とならんか、谷中村と同一堤内に在る海老瀬村の一部は其運命を共にせざる可らず。是を以て谷中村民ハ従来の情誼を有する海老瀬村と共に滅亡せざる可からざる悲境を齎らす可き買収に対してハ、自村を愛するの情を以て他村を遇せざる可からず。是れ奸悪なる買収政略に極力反対する所以なり。
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抑谷中村買収の事たる既に八九年以前よりの予謀に出でたるものにして、其間に於ける奸計猾策ハ実に人をして慄然たらしむるものあり。初め鉱山師の徒、地方官と結托して堤防を脆弱ならしめたるを第一着とし、明治三十二年間牒を村※[#二の字点、1−2−22]に派出し良民を勧めて巨額の村債を負ハしめ土地田畑の価を下落せしむる事を謀りて漸※[#二の字点、1−2−22]村民を貧弱ならしめ以て全村を奪掠せんことを企てたるを第二着とし、明治三十六年一月十六日臨時県会を召集して買収案を議せしめ否決せられて事の破れたるを第三着とせり。而して昨三十七年十二月廿[#「廿」に「〔十〕」の注記]日栃木県会ハ夜半密かに秘密会
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