河底へ沈澱するからソロ/\魚がやつて來る。之は僅かな雨の爲めに死ぬ、何故に僅な雨の爲に川の魚が死ぬるかと云ふと、其れは洪水の時堤防に毒がたんと付いて居る、草や木に毒が一杯ついて居る、是れが少しでも雨が降りますると地を洗つて毒を落し、堤防の毒を洗つた水が少しでも流れこむと魚が死ぬ、是は洪水でなくとも然う云ふ有樣でございまする。其故に今日でも野菜が生へない。其れでも百姓と云ふものは、綺麗な地面であるから菜を蒔いたら生へるだろう、芋を植へたら出來るだろうと迷つて居る。魚も捕れないことは無い、時としては來るからと言ふて、魚を捕る道具を持つて居るものもある。
 食物を喫べる時毒を食べると云ふに至ては情ない話である。洪水が出ますと水と共に田畑へ鑛毒が這入りまして、高い所には這入らない處もありまして、鑛毒の無い水と鑛毒のある水とある。籾は鑛毒の水を被つたのも腐れ、鑛毒のない水を被つたのも腐れ、どちらも其籾の皮を剥ぐと黒い玄米が出來て、是を小米と稱へる。此の小米を白米にしようと思ふと、粉になつてしまつて白米にはならない。是を玄米のまゝ碓で挽いて粉にする。そこまでは同じであるが、毒水を被つたのと被らない
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