るのは急激に來る、急激に來て急に財産を失ひ、急に貧乏になり、急に衣食住を缺き、急に榮養力を減ずる。就中衞生上の害は大きく、農民が馬を飼つても馬に喰はせる藁が無い。洪水が出ました跡の草を刈つても、其草を馬に喰はせることが出來ない。是はもう論外で、其から來る衞生上の害は察するに餘あることでございまする。毒に基づく榮養力の減退を考へまするに、明治十四年栃木縣の統計に據れば、魚を捕るものが二千七百七十三人ございましたのが、明治廿一年には七百八十七人に減じた位でございます。又た野菜の方を見ましても、足利郡羽田の庭田と云ふ人は本家新宅の家の周りに十五町餘の田地を持つて居て、其の十五町餘の耕地に菜一つ作ることが出來ない。今日此處で私が申上げても其眞相を描き出すことが出來ない。十五町餘も宅地に附いた地面がありながら菜一つ作ることが出來ない、其でも作つて見たいから、二尺も三尺も土を脇へやつて中へ菜を蒔いて見る――風が吹くと其中へ砂が落ちるから菜が枯れる、雨が降つても枯れる。魚も然うでございます。魚は一尾も居ない――一尾も居ないと云ふことは無い、居る時もある。居る時はいつも秋である。秋長く天氣が續くと毒が
前へ
次へ
全44ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 正造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング