の機を失せり。時偶々日清戰爭に際せるを以て、擧國一致の必要より、本員等又政府に對する質問は暫く枉げて中止することゝし、力めて官民の協戮を圖れり。然るに廿七年の洪水にて鑛毒の流出益々多大なるの實況を見るや、鑛業人の狼狽一方ならず、地方官又同じく前項の盡力一空に歸せんことを恐れ、壯丁出陣の不在を窺ひて日々被害町村に出沒し、老夫幼童を威嚇して、自己隨意の契約證を作りて之に盲印を押さしめ、以て鑛業人の爲に謀らんとす。而も政府の之を默視する理由如何。
一、右に付本員等は日清戰爭終局を待ち、明治廿九年の議會に於て地方官吏の惡計を摘發し更に第四囘の質問を爲せり。然るに政府は漫然として之が答辯を爲さざるのみならず、今尚依然として其行爲を改めざるの理由如何。
一、前項の如くにして、明治廿七年の洪水以降年々増加する鑛毒啻に渡良瀬川に止らず、今や利根川北岸に迄浸漸して、四縣下十郡數萬町歩の田宅將に擧て沙漠に化せんとす。然るに政府の之を坐視する理由如何。
一、足尾鑛山の鑛業伸擴するに隨ひ、渡良瀬川水源の樹木を濫伐すること益々多く、水源涵養の道今や爲に全く絶え、之に因て土砂流出河身壅塞舟楫往來の便亦自ら缺け、洪
前へ 次へ
全44ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 正造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング