事でありましたけれど、今日山崩を防ぐ計畫をすれば、まだ是丈は幾らか防げるかと思ふのでごさいます。
 斯樣な譯で、此鑛毒と洪水の事を少々申上げなければなりませぬ。洪水の事は各府縣に於ても災害を受けて居る事でありますから喋々申しませぬ。唯だ群馬栃木埼玉茨城の洪水は、毒が這入つて居ると云ふだけが違つて居る。越後岡山其他各地洪水の御話も隨分慘憺たる有樣でありますが、此方のには毒があるのでございますから、諸君の御賢察を願はなければなりませぬ。それで此堤防に生へる所の竹が枯れてしまう。是れが(演壇上に竹を示しつゝ)堤防の竹でございます。是は當年の竹が死んでしまつたのである。鑛毒の爲に根が枯れる、此根が皆な長くならなければならぬのに、皆な枯れて是だけしか根がありませぬ。――此の堤防のことにつき當節土木局の役入抔の話によりますると、一體堤防に竹のあるのはよくない、綺麗に刈拂はぬと、洪水の時に蟻の穴鼠の穴から堤防の崩れるのが分らぬ、殊に手を掛けないで鑛毒の爲に枯れて呉れゝば便利だなどゝ云ふ辯護説もあるそうでございます。從來竹を以て護岸とし或は草を以て護岸とし柳を以て護岸とする徳川時代の堤防は、皆な地勢に
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