。前年栃木縣農事試驗所に於て致した所の試驗、又明治廿二年と廿九年の兩度に於て醫科大學の三宅秀と云ふ人が、鑛毒が衞生に害があると云ふことを二囘栃木縣へ來て演説された。其他色々の調により、銅山の毒が何に障るかと云ふ位の事は分り切つて居るのに、農商務省が分からぬと云ふは不思議千萬である。銅山製鑛所の烟害と云ふものが山林を枯して山を禿にするばかりで無い、此の烟突から出る烟が風に從つて或は東或は西、數里の間山に登つて、目に見へるだけ皆な禿山になつてしまつた。木ばかりでは無い、竹草苔と云ふものまでも綺麗に之を枯してしまふ。烟の中に一種の灰が混つて居る。此灰が觸れると忽ち葉が枯れると申しまする。是は化學者の領分で、私は細かい御話をしませぬが、何にしろ木が枯れる。日本開始以來斧斤を入れない山と云ふものは、木の根で網の如く絡んで居て、落ちようとする土砂を木の根で固く抑へて居り、崩れかゝる巖石を木の根で固く支へて居る。是を伐つてしまつたから山の土石が崩れる。今四五年經つて此根が腐つてしまへば、必ず山が大崩れに崩れて如何なる災害が來るかわからぬ。昨年の洪水は未だ此點にまで達したのではござりませぬ。斯樣なこと
前へ
次へ
全44ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 正造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング