さんに無理をいふて困らせては成りませぬと教ゆれば、困らせる處か、お峰聞いて呉れ、歳は八つなれど身躰も大きし力もある、我《わし》が寐てからは稼ぎ人《て》なしの費用《いりめ》は重なる、四苦八苦見かねたやら、表の鹽物やが野郎と一處に、蜆《しゞみ》を買ひ出しては足の及ぶだけ擔ぎ廻り、野郎が八錢うれば十錢の商ひは必らずある、一つは天道さまが奴の孝行を見徹してか、兎なり角なり藥代は三が働き、お峰ほめて遣つて呉れとて、父は蒲團をかぶりて涙に聲をしぼりぬ。學校は好きにも好きにも遂ひに世話をやかしたる事なく、朝めし喰べると馳け出して三時の退校《ひけ》に道草のいたづらした事なく、自慢では無けれど先生さまにも褒め物の子を、貧乏なればこそ蜆を擔がせて、此寒空に小さな足に草鞋をはかせる親心、察して下されとて伯母も涙なり。お峰は三之助を抱きしめて、さてもさても世間に無類の孝行、大がらとても八歳《やつ》は八歳、天秤肩にして痛みはせぬか、足に草鞋くひは出來ぬかや、堪忍して下され、今日よりは私も家に歸りて伯父樣の介抱|活計《くらし》の助けもしまする、知らぬ事とて今朝までも釣瓶の繩の氷を愁《つ》らがつたは勿躰ない、學校ざ
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