》がりて腫れ物のやうに障るものなく、何事も言ふなりの通るに一段と我がまゝをつのらして、炬燵に兩足、醉ざめの水を水をと狼藉はこれに止めをさしぬ、憎くしと思へど流石に義理は愁《つ》らき物かや、母親かげの毒舌をかくして風引かぬやうに小抱卷何くれと枕まで宛がひて、明日の支度のむしり田作《ごまめ》、人手にかけては粗末になる物と聞えよがしの經濟を枕もとに見しらせぬ。正午《ひる》も近づけばお峰は伯父への約束こゝろもと無く、御新造が御機嫌を見はからふに暇も無ければ、僅かの手すきに頭《つむ》りの手拭ひを丸めて、此ほどより願ひましたる事、折からお忙がしき時心なきやうなれど、今日の晝る過ぎにと先方へ約束のきびしき金とやら、お助けの願はれますれば伯父の仕合せ私の喜び、いついつまでも御恩に着まするとて手をすりて頼みける、最初《はじめ》いひ出し時にやふや[#「にやふや」に傍点]ながら結局《つまり》は宜しと有し言葉を頼みに、又の機嫌むつかしければ五月蠅いひては却りて如何と今日までも我慢しけれど、約束は今日と言ふ大晦日のひる前、忘れてか何とも仰せの無き心もとなさ、我れには身に迫りし大事と言ひにくきを我慢して斯くと申け
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