が道樂なりけり、到底《とても》これに相續は石油藏へ火を入れるやうな物、身代|烟《けふ》りと成りて消え殘る我等何とせん、あとの兄弟も不憫と母親、父に讒言《ざんげん》の絶間なく、さりとて此放蕩子《これ》を養子にと申受る人此世にはあるまじ、とかくは有金の何ほどを分けて、若隱居の別戸籍にと内々の相談は極まりたれど、本人うわの空に聞流して手に乘らず、分配金は一萬、隱居扶持月々おこして、遊興に關を据ゑず、父上なくならば親代りの我れ、兄上と捧げて竈の神の松一本も我が託宣を聞く心ならば、いかにもいかにも別戸の御主人に成りて、此家の爲には働かぬが勝手、それ宜しくば仰せの通りになりましよと、何うでも嫌やがらせを言ひて困らせける。去歳《こぞ》にくらべて長屋もふゑたり、所得は倍にと世間の口より我が家の樣子を知りて、をかしやをかしや、其やうに延ばして誰が物にする氣ぞ、火事は燈明皿よりも出る物ぞかし、總領と名のる火の玉がころがるとは知らぬか、やがて卷きあげて貴樣たちに好き正月をさせるぞと、伊皿子《いさらご》あたりの貧乏人を喜ばして、大晦日を當てに大呑みの場處もさだめぬ。
 それ兄樣のお歸りと言へば、妹ども怕《こは
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