るまじ、夫れにつけても首尾そこなうては成らねば、今日は私は歸ります、又の宿下りは春永、その頃には皆々うち寄つて笑ひたきもの、とて此金《これ》を受合ける。金は何として越《おこ》す、三之助を貰ひにやろかとあれば、ほんに夫れで御座んす、常日《つね》さへあるに大晦日といふては私の身に隙はあるまじ、道の遠きに可憐さうなれど、三ちやんを頼みます、晝前のうちに必らず必らず支度はして置まするとて、首尾よく受合ひてお峰は歸りぬ。
(下)
石之助とて山村の總領息子、母の違ふに父親《てゝおや》の愛も薄く、これを養子に出して家督《あと》は妹娘の中にとの相談、十年の昔より耳に挾みて面白からず、今の世に勘當のならぬこそをかしけれ、思ひのまゝに遊びて母が泣きをと父親の事は忘れて、十五の春より不了簡をはじめぬ、男振にがみありて利發らしき眼ざし、色は黒けれど好き樣子《ふう》とて四隣《あたり》の娘どもが風説《うはさ》も聞えけれど、唯亂暴一途に品川へも足は向くれど騷ぎは其座|限《ぎ》り、夜中に車を飛ばして車町《くるまちやう》の破落戸《ごろ》がもとをたゝき起し、それ酒かへ肴と、紙入れの底をはたき無理を徹す
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