)》き処ありとも、凡人《たゞ(びと)》の目に好しと見ゆべきかは、恐ろしく気味悪く油断ならぬ小僧と指さゝるゝはては、警察にさへ睨まれて、此処の祭礼かしこの縁日、人山きづくが中に忌《(いま)》はしき疑《うたがひ》を受けつ、口をしや剪児《すり》よ盗人と万人にわめかれし事もありき。
人の眼はくもりたるものにて、耳は千里の外までも聞くか、あやまり伝へたる事は再度きえず、渡辺の金吾は誠の盗賊《もの》に成りぬ、やがては明治の何と肩がきのつくべきほど、おそろしがらるゝ身かへりて恐ろしく、此処を離れて知らぬ土地に走らんと思ひたる事もあり、恨みに堪えかねては死なばやと思ひたる事もあり、幾度水のおもてに臨みて、これを限りと眺めたる事もありしが、易きに似て難きものは死なりけり。
捨てはてし身にも猶《(なほ)》衣食のわづらひあれば、昼は※[#「研のつくり」、第3水準1−84−17]処《(そこ)》となくさまよひて何となく使はれ、夜は一処不住の宿りに、かくても夢は結びつゝ、日一日とたゞよひにたゞよひて、過《(すぐ)》しゆくほどに、脊たけと共にのびゆくは、ねじけたる心なるべし。
(下)
御行《(おぎ
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