たる、女相撲のやうな老婆《ばゝ》さま有りき、六年前の冬の事寺參りの歸りに角兵衞の子供を拾ふて來て、いゝよ親方から八釜《やかま》しく言つて來たら其時の事、可愛想に足が痛くて歩かれないと言ふと朋輩の意地惡が置ざりに捨てゝ行つたと言ふ、其樣な處へ歸るに當るものか少《ちつ》とも怕《おつ》かない事は無いから私が家に居なさい、皆も心配する事は無い何の此子位のもの二人や三人、臺所へ板を並べてお飯《まんま》を喰べさせるに文句が入る物か、判證文を取つた奴でも欠落《かけおち》をするもあれば持逃げの吝な奴もある、了簡次第の物だわな、いはゞ馬には乘つて見ろさ、役に立つか立たないか置いて見なけりや知れはせん、お前新網へ歸るが嫌やなら此家《こゝ》を死場と極めて勉強をしなけりやあ成らないよ、しつかり遣つてお呉れと言ひ含められて、吉や/\と夫れよりの丹精今油ひきに、大人三人前を一手に引うけて鼻唄交り遣つて退ける腕を見るもの、流石に眼鏡と亡き老婆《ひと》をほめける。
 恩ある人は二年目に亡せて今の主も内儀樣も息子の半次も氣に喰はぬ者のみなれど、此處を死場と定めたるなれば厭やとて更に何方《いづかた》に行くべき、身は疳癪に
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