が、もしかすると左樣かも知れない、夫れなら己れは乞食の子だ、母親《おふくろ》も父親《おやぢ》も乞食かも知れない、表を通る襤褸《ぼろ》を下げた奴が矢張己れが親類まきで毎朝きまつて貰ひに來る跣跋《びつこ》片眼《めつかち》の彼の婆あ何かゞ己れの爲の何に當るか知れはしない、話さないでもお前は大底しつて居るだらうけれど今の傘屋に奉公する前は矢張己れは角兵衞の獅子を冠つて歩いたのだからと打しをれて、お京さん己れが本當に乞食の子ならお前は今までのやうに可愛がつては呉れないだらうか、振向いて見ては呉れまいねと言ふに、串戲をお言ひでないお前が何のやうな人の子で何んな身か夫れは知らないが、何だからとつて嫌やがるも嫌やがらないも言ふ事は無い、お前は平常の氣に似合ぬ情ない事をお言ひだけれど、私が少しもお前の身なら非人でも乞食でも構ひはない、親が無からうが兄弟が何うだらうが身一つ出世をしたらば宜からう、何故其樣な意氣地なしをお言ひだと勵ませば、己れは何うしても駄目だよ、何にも爲やうとも思はない、と下を向いて顏をば見せざりき。
中
今は亡《う》せたる傘屋の先代に太つ腹のお松とて一代に身上をあげ
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