わかれ道
樋口一葉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)お京《きやう》さん

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一人|娘《ご》で

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)こと/\
−−

       上

 お京《きやう》さん居ますかと窓の戸の外に來て、こと/\と羽目を敲《たゝ》く音のするに、誰れだえ、もう寐て仕舞つたから明日來てお呉れと嘘を言へば、寐たつて宜いやね、起きて明けてお呉んなさい、傘屋の吉だよ、己《お》れだよと少し高く言へば、嫌な子だね此樣な遲くに何を言ひに來たか、又お餅《かちん》のおねだりか、と笑つて、今あけるよ少時《しばらく》辛棒おしと言ひながら、仕立かけの縫物に針どめして立つは年頃二十餘りの意氣な女、多い髮の毛を忙しい折からとて結び髮にして、少し長めな八丈の前だれ、お召の臺なしな半天を着て、急ぎ足に沓脱《くつぬぎ》へ下りて格子戸に添ひし雨戸を明くれば、お氣の毒さまと言ひながらずつと這入るは一寸法師《いつすんぼし》と仇名のある町内の暴れ者、傘屋の吉とて持て餘しの小僧なり、年は十六な
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