筋骨つまつてか人よりは一寸法師一寸法師と誹《そし》らるゝも口惜しきに、吉や手前は親の日に腥《なまぐ》さを喰《やつ》たであらう、ざまを見ろ廻りの廻りの小佛と朋輩の鼻垂れに仕事の上の仇を返されて、鐵拳《かなこぶし》に張たほす勇氣はあれど誠に父母いかなる日に失せて何時を精進日とも心得なき身の、心細き事を思ふては干場の傘のかげに隱くれて大地を枕に仰向《あふの》き臥してはこぼるゝ涙を呑込みぬる悲しさ、四季押とほし油びかりする目くら縞の筒袖を振つて火の玉の樣な子だと町内に怕がられる亂暴も慰むる人なき胸ぐるしさの餘り、假にも優しう言ふて呉れる人のあれば、しがみ附いて取ついて離れがたなき思ひなり。仕事屋のお京は今年の春より此裏へと越して來し物なれど物事に氣才《きさい》の利きて長屋中への交際もよく、大屋なれば傘屋の者へは殊更に愛想を見せ、小僧さん達着る物のほころびでも切れたなら私の家へ持つてお出、お家は御多人數お内儀さんの針もつていらつしやる暇はあるまじ、私は常住仕事|疊紙《たゝう》と首つ引の身なれば本の一針造作は無い、一人住居の相手なしに毎日毎夜さびしくつて暮して居るなれば手すきの時には遊びにも來て下
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