で五里の道を取りにやりて、やう/\※[#「澁」の「さんずい」に代えて「魚」、第4水準2−93−77]《まぐろ》の刺身が口に入る位、あなたは御存じなけれどお親父《とつ》さんに聞て見給へ、それは隨分不便利にて不潔にて、東京より歸りたる夏分などは我まんのなりがたき事もあり、そんな處に我れは括《くゝ》られて、面白くもない仕事に追はれて、逢ひたい人には逢はれず、見たい土地はふみ難く、兀々《こつ/\》として月日を送らねばならぬかと思に、氣のふさぐも道理とせめては貴孃《あなた》でもあはれんでくれ給へ、可愛さうなものでは無きかと言ふに、あなたは左樣仰しやれど母などはお浦山しき御身分と申て居りまする。
何が此樣な身分うら山しい事か、こゝで我れが幸福《しやわせ》といふを考へれば、歸國するに先だちてお作が頓死するといふ樣なことにならば、一人娘のことゆゑ父親《てゝおや》おどろいて暫時は家督沙汰やめになるべく、然るうちに少々なりともやかましき財産などの有れば、みすみす他人なる我れに引わたす事をしくも成るべく、又は縁者の中なる欲ばりども唯にはあらで運動することたしかなり、その曉に何かいさゝか仕損なゐでもこしらゆ
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