たじけなくお受けなされとて波々とつぐに、さりとは無作法な置つぎといふが有る物か、夫れは小笠原か、何流ぞといふに、お力流とて菊の井一家の左法、疊に酒のまする流氣もあれば、大平の蓋であほらする流氣もあり、いやなお人にはお酌をせぬといふが大詰めの極りでござんすとて臆したるさまもなきに、客はいよ/\面白がりて履歴をはなして聞かせよ定めて凄ましい物語があるに相違なし、たゞの娘あがりとは思はれぬ何うだとあるに、御覽なさりませ未だ鬢の間に角も生へませず、其やうに甲羅は經ませぬとてころ/\と笑ふを、左樣ぬけてはいけぬ、眞實の處を話して聞かせよ、素性が言へずば目的でもいへとて責める、むづかしうござんすね、いふたら貴君《あなた》びつくりなさりましよ天下を望む大伴《おほとも》の黒主《くろぬし》とは私が事とていよ/\笑ふに、これは何うもならぬ其やうに茶利《ちやり》ばかり言はで少し眞實《しん》の處を聞かしてくれ、いかに朝夕を嘘の中に送るからとてちつとは誠も交る筈、良人はあつたか、それとも親故かと眞に成つて聞かれるにお力かなしく成りて私だとて人間でござんすほどに少しは心にしみる事もありまする、親は早くになくなつて
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