てお力の事につきて此後とやかく言ひませず、陰の噂しますまい故離縁だけは堪忍して下され、改めて言ふまでは無けれど私には親もなし兄弟もなし、差配の伯父さんを仲人なり里なりに立てゝ來た者なれば、離縁されての行き處とてはありませぬ、何うぞ堪忍して置いて下され、私は憎くかろうと此子に免じて置いて下され、謝りますとて手を突いて泣けども、イヤ何うしても置かれぬとて其後は物言はず壁に向ひてお初が言葉は耳に入らぬ體、これほど邪慳の人ではなかりしをと女房あきれて、女に魂を奪はるれば是れほどまでも淺ましくなる物か、女房が歎きは更なり、遂ひには可愛き子をも餓へ死させるかも知れぬ人、今詫びたからとて甲斐はなしと覺悟して、太吉、太吉と傍へ呼んで、お前は父さんの傍と母さんと何處《どちら》が好い、言ふて見ろと言はれて、我らはお父さんは嫌い、何にも買つて呉れない物と眞正直をいふに、そんなら母さんの行く處へ何處へも一處に行く氣かへ、あゝ行くともとて何とも思はぬ樣子に、お前さんお聞きか、太吉は私につくといひまする男の子なればお前も欲しからうけれど此子はお前の手には置かれぬ、何處までも私が貰つて連れて行きます、よう御座んすか
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