ひますとて潜然《さめ/″\》とするに、珍らしい事陰氣のはなしを聞かせられる、慰めたいにも本末《もとすゑ》をしらぬから方がつかぬ、夢に見てくれるほど實があらば奧樣にしてくれろ位いひそうな物だに根つからお聲がかりも無いは何ういふ物だ、古風に出るが袖ふり合ふもさ、こんな商賣を嫌だと思ふなら遠慮なく打明けばなしを爲るが宜い、僕は又お前のやうな氣では寧《いつそ》氣樂だとかいふ考へで浮いて渡る事かと思つたに、夫れでは何か理屈があつて止むを得ずといふ次第か、苦しからずは承りたい物だといふに、貴君には聞いて頂かうと此間から思ひました、だけれども今夜はいけませぬ、何故/\、何故でもいけませぬ、私が我まゝ故、申まいと思ふ時は何うしても嫌やでござんすとて、ついと立つて椽がはへ出るに、雲なき空の月かげ涼しく、見おろす町にからころ[#「からころ」に傍点]と駒下駄の音さして行かふ人のかげ分明《あきらか》なり、結城さんと呼ぶに、何だとて傍へゆけば、まあ此處へお座りなさいと手を取りて、あの水菓子屋で桃を買ふ子がござんしよ、可愛らしき四つ計の、彼子《あれ》が先刻の人のでござんす、あの小さな子心にもよく/\憎くいと思ふと
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