すといふ、困つた人だな種々《いろ/\》祕密があると見える、お父《とつ》さんはと聞けば言はれませぬといふ、お母《つか》さんはと問へば夫れも同じく、これまでの履歴はといふに貴君には言はれぬといふ、まあ嘘でも宜いさよしんば作り言にしろ、かういふ身の不幸《ふしあはせ》だとか大底の女《ひと》は言はねばならぬ、しかも一度や二度あふのではなし其位の事を發表しても子細はなからう、よし口に出して言はなからうともお前に思ふ事がある位めくら按摩に探ぐらせても知れた事、聞かずとも知れて居るが、夫れをば聞くのだ、どつち道同じ事だから持病といふのを先きに聞きたいといふ、およしなさいまし、お聞きになつても詰らぬ事でござんすとてお力は更に取あはず。
折から下坐敷より杯盤《はいばん》を運びきし女の何やらお力に耳打して兎も角も下までお出よといふ、いや行き度ないからよしてお呉れ、今夜はお客が大變に醉ひましたからお目にかゝつたとてお話しも出來ませぬと斷つてお呉れ、あゝ困つた人だねと眉を寄せるに、お前それでも宜いのかへ、はあ宜いのさとて膝の上で撥《ばち》を弄《もてあそ》べば、女は不思議さうに立つてゆくを客は聞すまして笑ひなが
前へ
次へ
全44ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
樋口 一葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング