まする、何うしても私共の手にのらぬやんちや[#「やんちや」に傍点]なれば貴君から叱つて下され、第一湯呑みで呑むは毒でござりましよと告口するに、結城は眞面目になりてお力酒だけは少しひかへろとの嚴命、あゝ貴君のやうにもないお力が無理にも商賣して居られるは此力と思し召さぬか、私に酒氣が離れたら坐敷は三昧堂《さんまいだう》のやうに成りませう、ちつと察して下されといふに成程/\とて結城は二言といはざりき。
或る夜の月に下坐敷へは何處やらの工場の一|連《む》れ、丼たゝいて甚九かつぽれの大騷ぎに大方の女子は寄集まつて、例の二階の小坐敷には結城とお力の二人限りなり、朝之助は寢ころんで愉快らしく話しを仕かけるを、お力はうるさゝうに生返事をして何やらん考へて居る樣子、何うかしたか、又頭痛でもはじまつたかと聞かれて、何頭痛も何もしませぬけれど頻に持病が起つたのですといふ、お前の持病も肝癪か、いゝゑ、血の道か、いゝゑ、夫では何だと聞かれて、何うも言ふ事は出來ませぬ、でも他の人ではなし僕ではないか何んな事でも言ふて宜さそうなもの、まあ何の病氣だといふに、病氣ではござんせぬ、唯こんな風になつて此樣な事を思ふので
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