よ、私は此人と一處に歸ります、左樣ならとて頭を下げるに、あれ美いちやんの現金な、最うお送りは入りませぬとかえ、そんなら私は京町で買物しましよ、とちよこ/\走りに長屋の細道へ驅け込むに、正太はじめて美登利の袖を引いて好く似合ふね、いつ結つたの今朝かへ昨日かへ何故はやく見せては呉れなかつた、と恨めしげに甘ゆれば、美登利打しほれて口重く、姉さんの部屋で今朝結つて貰つたの、私は厭やでしようが無い、とさし俯向きて往來を恥ぢぬ。
十五
憂く恥かしく、つゝましき事身にあれば人の褒めるは嘲りと聞なされて、嶋田の髷のなつかしさに振かへり見る人たちをば我れを蔑む眼つきと察《と》られて、正太さん私は自宅《うち》へ歸るよと言ふに、何故今日は遊ばないのだらう、お前何か小言を言はれたのか、大卷さんと喧嘩でもしたのでは無いか、と子供らしい事を問はれて答へは何と顏の赤《あから》むばかり、連れ立ちて團子屋の前を過ぎるに頓馬は店より聲をかけてお中が宜しう御座いますと仰山な言葉を聞くより美登利は泣きたいやうな顏つきして、正太さん一處に來ては嫌やだよと、置きざりに一人足を早めぬ。
お酉さまへ諸共にと言ひ
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