、かなはぬは見すぼらしく、人事我事分別をいふはまだ早し、幼な心に目の前の花のみはしるく、持まへの負けじ氣性は勝手に馳せ廻りて雲のやうな形をこしらへぬ、氣違ひ街道、寐ぼれ道、朝がへりの殿がた一順すみて朝寐の町も門の箒目《はゝきめ》青海波《せいがいは》をゑがき、打水よきほどに濟みし表町の通りを見渡せば、來るは來るは、萬年町山伏町、新谷町あたりを塒《ねぐら》にして、一能一術これも藝人の名はのがれぬ、よか/\飴や輕業師、人形つかひ大神樂、住吉をどりに角兵衞獅子、おもひおもひの扮粧《いでたち》して、縮緬透綾《ちりめんすきや》の伊達もあれば、薩摩がすりの洗ひ着に黒襦子の幅狹帶、よき女もあり男もあり、五人七人十人一組の大たむろもあれば、一人淋しき痩《や》せ老爺《おやぢ》の破れ三味線かゝへて行くもあり、六つ五つなる女の子に赤襷させて、あれは紀の國おどらするも見ゆ、お顧客《とくい》は廓内に居つゞけ客のなぐさみ、女郎の憂さ晴らし、彼處に入る身の生涯やめられぬ得分ありと知られて、來るも來るも此處らの町に細かしき貰ひを心に止めず、裾に海草《みるめ》のいかゞはしき乞食さへ門には立たず行過るぞかし、容顏《きりやう
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