「ぎつちよんちよん」に傍点]と拍子を取りて、運動會に木やり音頭もなしかねまじき風情、さらでも教育はむづかしきに教師の苦心さこそと思はるゝ入谷《いりや》ぢかくに育英舍とて、私立なれども生徒の數は千人近く、狹き校舍に目白押の窮屈さも教師が人望いよ/\あらはれて、唯學校と一ト口にて此あたりには呑込みのつくほど成るがあり、通ふ子供の數々に或は火消鳶人足、おとつさんは刎橋《はねばし》の番屋に居るよと習はずして知る其道のかしこさ、梯子のりのまねびにアレ忍びがへしを折りましたと訴へのつべこべ、三百といふ代言の子もあるべし、お前の父さんは馬だねへと言はれて、名のりや愁《つ》らき子心にも顏あからめるしほらしさ、出入りの貸座敷《いへ》の祕藏息子寮住居に華族さまを氣取りて、ふさ付き帽子面もちゆたかに洋服かる/″\と花々敷を、坊ちやん坊ちやんとて此子の追從するもをかし、多くの中に龍華《りうげ》寺[#「龍華《りうげ》寺」は底本では「龍華寺《りうじ》」]の信如《しんによ》とて、千筋《ちすぢ》となづる黒髮も今いく歳《とせ》のさかりにか、やがては墨染にかへぬべき袖の色、發心《ほつしん》は腹からか、坊は親ゆづりの勉強も
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