何にかなる、とかくは檜舞臺と見たつるもをかしからずや、垢ぬけのせし三十あまりの年増、小ざつぱりとせし唐棧ぞろひに紺足袋はきて、雪駄ちやら/\忙がしげに横抱きの小包はとはでもしるし、茶屋が棧橋とんと沙汰して、廻り遠や此處からあげまする、誂へ物の仕事やさんと此あたりには言ふぞかし、一體の風俗よそと變りて、女子《おなご》の後帶きちんとせし人少なく、がらを好みて巾廣の卷帶、年増はまだよし、十五六の小癪なるが酸漿《ほゝづき》ふくんで此|姿《なり》はと目をふさぐ人もあるべし、所がら是非もなや、昨日河岸店に何紫の源氏名耳に殘れど、けふは地廻りの吉と手馴れぬ燒鳥の夜店を出して、身代たゝき骨になれば再ム古巣への内儀《かみさま》姿、どこやら素人よりは見よげに覺えて、これに染まらぬ子供もなし、秋は九月|仁和賀《にわか》の頃の大路を見給へ、さりとは宜くも學びし露八《ろはち》が物眞似、榮喜《えいき》が處《しよ》作、孟子の母やおどろかん上達の速やかさ、うまいと褒められて今宵も一廻りと生意氣は七つ八つよりつのりて、やがては肩に置手ぬぐひ、鼻歌のそゝり節、十五の少年がませかた恐ろし、學校の唱歌にもぎつちよんちよん[#
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